ベートーベン作品紹介:その2

ピアノソナタ


中期ソナタの傑作と小物

その1で三大ソナタ(悲愴・月光・熱情)を紹介しました。ピアノソナタの入門編として最適な選曲だと思います。特に熱情はその内容の豊かさからいくら聴いても飽きのこない傑作ですので長く親しめ、入り口としてだけでなく末永く付き合える曲である点がこの選曲の優れた点です。そしてこの3曲にワルトシュタイン(もしくはヴァルトシュタイン)と呼ばれるピアノソナタをあわせて4大ソナタと称されることがあります。今回はそのワルトシュタインと、かっこう、告別といった曲を紹介していきたいと思います。


ワルトシュタイン
piano sonata No.21

この曲ではよくベートーベンに付きまとう悲愴感のようなものは感じられない。技術的にも要求されるものは高く、また音楽的にも様々な実験が施された節のある曲で作曲当時劇的な進化を遂げていたピアノのその時点でのほぼ最高性能(音域を含めて)を要求したという。中期ソナタでは熱情と双璧を成すとまで称される。トータルで熱情に及ばないもののベートーベンが中期においてひとつハードルを越えた結果の産物と思ってよいだろう。この作品は友人にしてパトロンであったワルトシュタイン伯爵にささげられたのでワルトシュタインと呼ばれるようになった。

第一楽章
一言でいうと華麗な曲調。音色は第一楽章を通して明るく、華やいだ雰囲気がある。常に小気味よいリズムを刻みながら曲は進行していく。時に少し立ち止まって振りかえり、同じあたりをうろちょろしてるかのような印象を与える部分もあるが最後は何かを吹っ切るように勢いを増して第一楽章を終える。

第二楽章
第一楽章とは打って変わってゆっくりとした静かな曲になる。古いアルバムのページをめくりながら物思いにふけっているかのような曲調。うとうとしていたところから目が徐々に覚めていくかのように、自然な流れで切れ目なく第三楽章に移っていく。

第三楽章
ちょっとした幸せを発見でもしたかのように瑞々しい曲調で第三楽章は始まる。途中から曲調はむしろ第一楽章に類したものに戻っていく。個人的には第二楽章〜第三楽章の序盤にかけての部分が聴き応えのあるところだと思っている。 (注:実はここで第二・第三楽章としてるのがまとめて第二楽章なのではないかという話が・・けど細かいことは気にしないでいきましょう(ぉぃ))

個人的に薦めたい演奏家
ウィルヘルム・ケンプ
ケンプは表現力の豊かさに定評のあるピアニストで、単純なテクニックという面ではやや厳しい評価を受けている。しかしその解釈、表現における力量でその地位を確立した。第三楽章などは彼の演奏はよくマッチしていると思う。ややテンポの遅いゆったりとした演奏を聴きたい場合に聴くと良いだろう。他に月光(特に第三楽章)なども独特の演奏を残している。入門に聴くのはどうかと思うが、そのうち聴いておいてよい演奏かもしれない。




かっこう
piano sonata No.25

テレーゼと呼ばれることもある24番が息抜きのような作品だった(とは言っても軽快ないい曲)勢いなのかややベートーベンらしからぬ曲風に仕上がっている。

第一楽章
まるでモーツァルトが作曲したのかと思ったほど軽快なテンポで颯爽と空を舞うように曲が奏でられていく。終始軽快な曲調。

第二楽章
ある意味この曲の最大の聴き所。第一楽章とは打って変わってやや憂いを帯びたかのような曲調でスタートする。実に穏やかな曲で、どちらかといえば小曲である25番に音楽的な深みを与えている。ベートーベンの達した高みを感じさせるに十分な内容。

第三楽章
第一、第二楽章をさっとまとめ上げたような内容で、過不足なくまとまっている。第二楽章の深さと比べると大雑把な内容なのだが、第一楽章の存在もあることを考えるとこの内容が自然に思われる。

お勧めするピアニスト
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特にお勧めする演奏はなし。私はグルダの演奏を主に聴いてるのでひとまずそこらをお勧めしておくべきか。




告別
piano sonata No.26

告別というと死別に近いのをイメージしてしまうが(葬式の影響か)単純に別れのこと。人によっては「別れの曲」とも呼ぶようだが、ショパンにも「別れの曲」と呼ばれる曲があるためか「告別」と呼ぶのが一般的なようだ。ベートーベンが実際の友人とのしばしの別れ、不在、そして再会に至るまでをイメージして作曲したらしく、もっとも表題と曲そのものがマッチしているピアノソナタになっている。表題もベートーベン自身がつけたものらしく、楽章毎の副題も彼自身によるようだ。表題はたいてい後世の者がつけているのだが、表題のイメージにとらわれてしまう場合が少なくない。月光などがその好例だが、この曲に限ると表題のイメージを持って聴いてなんの問題もないと言ってもよいだろう。

第一楽章
-告別-
突然訪れた別れを悲しむように暗く沈みこんだ曲調で始まる。その一方で束の間の出会いを楽しんでいるかのような個所もある。

第二楽章
-不在-
親しき人が不在の間の寂しさ、物憂げさが伝わってくる。昔を思い出してはまた落ち込んでいるような雰囲気。

第三楽章
-再会-
ついに再会を果たし、喜びに浸っている様子が窺える。こ踊りして、というと言い過ぎかもしれないが抑えられないほど待ち焦がれた再会を巧く表現しているのではないだろうか。

お薦めする演奏家
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これも特にお勧めはなし。表題通りなのでピアニストもイメージがしやすいらしく、また作曲者の目論見もわりとはっきりしているせいかあまり演奏ごとの差がないような気がする。どれを買ってもしっかりしたピアニストでさえあれば外れを引くことはないととってもよいだろう。ちなみに私が最初に購入したのはウィルヘルム・バックハウスの演奏でした。


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