ゴルゴ研究その2


ゴルゴ13の正しい読み方


依頼におけるパターン


1:依頼に至る経緯の紹介
依頼者が舞台設定を2〜3ページを使ってゴルゴに説明する。元ネタには国際的に注目された事件・報道がよく使われている。たいていはどこかで聞いたような話がそのストーリーの設定に使われているので、あ・・あの事件か、と思うことも多い。その事件の背後に実はこんなことが・・・ というのがお決まりのパターン。もちろん創作。そうでないとゴルゴの活躍する余地がなくなってしまう。ひょっとしたら国家の思惑などは真実を語っているのかもしれないが(たまにね)。

依頼者は時に歴史的背景まで交えて状況を事細かに説明してくれるのだが、ゴルゴは「おれは歴史の講釈を聞きに来たわけではない」とか「○○さん さっさと依頼の話に入ってもらおう」とか言ってゴルゴにとってはそれらの説明が無用の長物ですでにほとんどの状況を飲み込んだ上でその場に来ていることを匂わせる発言をする。依頼主もそのことはわかっているようで、「すいません つい熱くなってしまいました」とか「歳をとると前置きが長くなってしまい」などと応える。

こうしてみるとわざわざ貴重なページを費やして無駄なことをやっているように思えるかもしれないが、これには作者サイドの思惑がある。ひとつは読者が今回の設定をしっかりと飲み込んで読めるように、という配慮。そしてもうひとつはゴルゴがただの腕の立つテロリストなのではなく(どうも彼らのような存在はテロリストの一種に入るようだ)知識も豊富で時代の流れ、時事的な問題にも精通していることを強調するという側面なのである。ここでゴルゴの知的な側面が強調され、他の2流の同業者との線引きが図られる。

また、そもそも超A級のスナイパーであるゴルゴに依頼しにくるのであるから「ゴルゴでなければならない理由」も依頼の中で明かされる。もちろん第一にあがるのはミッションの困難さで、「こんなことを依頼するのは、死ねと言っているようなものなのです」という言葉で説明されることが多い。またゴルゴのような者たちに依頼するような内容は外部に漏れては困るから、その点に関してゴルゴに信頼がおけることを強調する内容になることもある。依頼の締めくくりは先ほどの「死ねといっているようなもの」という発言と「こんなことはあなた以外に頼むことはできないのです イエスと言ってください Mr.ゴルゴ13!!」という決め台詞、そしてじっとゴルゴの目を力なきものが神にすがるように哀願の眼差しで見つめることでゴルゴは100%依頼を受けてくれます。ゴルゴ以外には頼めない、ということを強調することが依頼を成功させる上で重要です。

ゴルゴに依頼するにはたいてい1億円前後の大金が必要になりますが、時にほとんど投資なしで受けてくれることがあります。依頼者の無念がいかほどのものかを強調し、なけなしの金をはたいて涙ながらに依頼してきた場合は額に関らずその依頼を受けるようです。あとはゴルゴのプライドを刺激するという手もありますが、こちらは少々危険。そもそも作中のケースでは依頼主がゴルゴを罠にはめようとしている場合がこれにあたることが多く、依頼主はたいていゴルゴの報復を受けてしまっているからだ。


2:依頼主とのやりとり
ゴルゴは握手をしない。依頼主が手を差し出してもゴルゴは手を差し出さない。ここではあとで述べる車への搭乗の際のやりとりとあわせて、ゴルゴの慎重さを強調する狙いがある。そのときの主なやり取りは

  1:依頼主が自ら気づいて謝罪する
「信用できるかわからない相手に利き腕をあずけるようなことは(以下略」と、ゴルゴの意思を代弁してくれる。ゴルゴのような人間にとって利き腕を失うことや、一時的にでも自由が利かなくなることは猛獣が牙や爪を失ったに等しく、すなわち死を意味することが示される。わずかでもこれらの危険に身をさらすことを嫌う慎重さがここで強調されているのだ。

  2:依頼主の同行者が気づいて依頼主に言う
「デューク東郷は握手の習慣をお持ちでない」と言って依頼主の手を引っ込めさせる。彼がゴルゴへのコンタクトを取る際に必要な手続きをしていることが多いようだ。


車に乗るときは最初には乗らないで、必ず先に依頼主が車に乗り込む。自分からハイハイと入っていくことはしない。踏絵のようにまず依頼主を乗り込ませる。その際依頼主サイドは握手の件と同じく「私でも信頼できるかどうかわからない相手に無防備な背中をさらすという愚行は(略」というようなことを言い、自ら車に乗り込んで安全であることをアピールする。ゴルゴが何も言わずに車の前で立ち止まったときはすかさずこういう発言でフォローしなければならない。

ゴルゴ13と呼ばれることを嫌う。これは相手にもよるのだが重要なパターンである。ゴルゴの前で依頼主が「ゴル・・」とまで口にしてはっとし、「いや、デューク東郷」と焦って言いなおす。このときゴルゴは一瞬不機嫌なことを示す眼差しを向ける。重要なパターンでありここらのやりとりを見逃してはならない。また依頼主によってはそんなことおかまいなくゴルゴ13と呼んだり、逆に「デューク」と馴れ馴れしく呼ぶものもいる。ゴルゴは「あんたからそう呼ばれる筋合いはない」というようなことを言うがこの依頼主の場合は気にしない。無礼なわりに殺されないというおもしろい存在。呼ばれ方は気にしてるわりには殺すまでは至らないことが多いようだ。

ゴルゴは暗闇で同じ場所にいることを嫌う。依頼主が部屋を暗くして依頼の背景を8mmフィルムなどの映像資料を通し説明する場合に見られる。部屋が暗くなる前と同じ場所に留まり続けることはゴルゴの命を狙う者がいるとすれば見逃せないチャンスであろう。ゴルゴからは暗くて危険が迫っても気づきにくく、狙う側としてはもといた場所さえ把握しておけばよいのだからこれほどのチャンスはそうそうない。だからゴルゴは暗くなったあとこっそりと移動し、明るくなったときに元の場所をみて驚く依頼主サイドに「同じ場所にとどまっていられるほどおれは自信家ではないんでな」と、自身が臆病であることを強調する。臆病というのは危険に対して素直にそれを避ける態度を示しており、これがゴルゴの身の置く世界で非情に重要なことであることが表されている。確実に死の危険を避けていくことが何にも優先される世界であり、数十年のキャリアの中で一回でも油断してしまえばそこで終わり、という過酷な世界に生きてきたことを彼はここで読者にアピールしているのだ。この臆病さこそが彼を数十年にわたり生き長らえさせてきた要因である、とも。

他には「ここに100万ドル用意した。これであんたのミラクルショットを見せてくれ」というような小気味いい依頼をするやつもいる。他は各自発見していってもらいたい。

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