ゴルゴ研究その1


ゴルゴ13の正しい読み方


物語の頻出パターン

まず大きな柱がひとつある。ゴルゴの物語の大半は実にこの一言を導き出すために描かれていると言っても過言ではない。この一言を導きだすためにあらゆる困難な舞台設定は生まれ、様々な登場人物が、そして様々な思惑が創出されてきたのだ。古今東西これほどまでにただひとつの結論を導き、繰り返し示すために努力を続けてきた作品が他にあるだろうか?ひょっとしたら、これは三平方の定理の証明が実に多くの方法で示されてきた同じなのかもしれない。そして同じくその結論が持つシンプルこそさが心を打つのではないか、と。
そしてその一言とは・・「なんてやつだっ」である。

1:「なんてやつだ」とは?
青で示していることからわかるように、これはゴルゴ以外の登場人物の発言である。むけられている相手はもちろんゴルゴ。ゴルゴには毎度毎度困難なミッション(要するに依頼だ)が科せられる。これはもういくらなんだって無理だろう、人間には無理だ・・とか普通に考えたら物理的に不可能といったものが多い。前者は特に死の危険を伴うものが多く、依頼編でふれるように死んでくれと言ってるに等しい依頼内容であることが多い。この死の危険が伴う依頼や、そもそも物理的にありえないことの遂行を依頼された場合ももちろんゴルゴはあらゆる困難を乗り越え達成する。達成できないようでは物語が成立しないし、仮にしてもこれらのことができないやつのことを描いても仕方がないのだ。ミッションの遂行の困難さをひたすら強調しぬいて、最後にズキューンで幕を閉じる。そして残された敵方やゴルゴを追っていた者たちは呆然として異口同音に呟くのだ・・「なんてやつだ・・」、と。

このパターンで強調されているのはミッションがいかに達成困難なものであるか、そして何よりもそれを達成してしまうゴルゴのスナイパーとしての力量がいかに優れているか、なのである。後にこれが発展し、ゴルゴは神の域に達することが描かれていくことになる。青で強調したのはゴルゴに神の力を見るのは依頼者等だからである。依頼主として登場する神父などがあたかもゴルゴが神の力を持った者、もしくはキリストと同じように人類の罪を背負った者、のように見る場面があるのだ。こうしてついにゴルゴは神の領域へと達するのであった。


2:時事問題編
最近はゴルゴがちょい役で登場するストーリーが増えてきたようだ。ほとんどゴルゴは登場せずに、最後だけその神業を披露する。たいていの場合、ごくごく一般の登場人物が大きな陰謀に巻き込まれ命の危険にさらされる、あるいはその陰謀を阻止しようとするがあまりに大きな力の前に愕然としたりしたところでゴルゴのM16カスタムが火を噴くのである。時事ネタで時に読者に問題提起をしたり、あるいは純粋に物語りに引き込んでいったりする。たいていは最近ニュースで話題になったことや、イラク戦争などのように長期にわたって国家の思惑がぶつかりあったその裏側で実は・・という話になっている。ひょっとしたらその裏側でこんなことが起こっていたのかもね、というようなノリで描かれている。東西冷戦の時代ではもっとゴルゴは前面に押し出されていた。国家の陰謀というか、明らかに後ろ暗いことも今よりもやりやすく表立ってやっていたからであろうと個人的には考えている。今はあそこまであからさまなことはできなくてゴルゴのような業界の人々の活躍の場ももう少しこっそりしたものになったんじゃないか、と。少々強引だがこの話はここらで終わり。ゴルゴがちょい役でしかでてこない話が最近は多くなったことをしっかり押さえておこう。


3:ゴルゴピンチに陥る
けっきょく1と共通するのだが、重要なパターンなので別記としておく。ピンチに陥るのはそもそも罠にはめられたパターンと、思わぬ強敵の出現、とがある。

罠にはめるほうはゴルゴに恨みを持っているものや、功名心からにかられてゴルゴを意図的に狙う者との戦いが描かれる。自分が訓練を施した特殊部隊の力を示したい者、とか、新兵器の力を示しビジネス面で成功させたい者、とかが主な相手である。
前者には次のような事情がある。各国家はお抱えの特殊部隊を持っている。にもかかわらず大金を払って、本来なら特殊部隊に任せるべきである仕事をゴルゴに任せてしまう。特殊部隊に任せるべきだ、と主張すればゴルゴのほうが信頼できる仕事をする、とかある規模の1部隊とゴルゴでもゴルゴのほうが力があるだろう、と言われてしまい「そんなことはない。ゴルゴを倒してそれを証明してやる。」となるわけだ。
後者にも事情がある。ゴルゴの活躍のせいでM16という銃が過大評価されてしまい、単純に銃のみで比べるならばより優れている銃を開発しても正当に評価されずゴルゴの強さとM16の神話が残ってしまう、というものである。銃以外だとより単純に強さの基準で頂点に立っているゴルゴを倒せば新兵器の評価をあげることができる、というようなものが多い。こちらはほとんど功名心だったりすることもある。ゴルゴはこれらを追い返すか殲滅しなければならないのだが、たいていの場合は意外な盲点を突かれ全滅してしまう。例外もあるが基本はこう思っていてよいだろう。

ゴルゴ自体、ほとんど超人扱いのキャラである。ある時期だけ発病する意味不明な持病(ギランバレー症候群らしい、という扱い)がある以外はパーフェクトな肉体を持っていることが強調されている。身体能力はもちろんのこと健康状態もほぼ常に最高の状態である、と。格闘技も全般にわたって超がつくほどの一流、たいていの武器にも精通している。特に狙撃に関してはもはや神業で、500〜600Mくらいはもはやお茶の子さいさい(ルパンに出てくる次元も555Mからの狙撃でノンミスのピンホールショットを延々と繰り返していたが)1500m先の揺れる船(タンカークラスだけど)上の人物も脳天直撃セガサターン。一説には2300mとかも決めたらしい。早撃ちに関しては0.3秒(次元)どころではなく0.17秒とかそういう世界。
しかし、時に拳銃の早撃ちで互角のやつがでてきたり、下手するとゴルゴよりも早かったやつもいた。長距離の狙撃は世界に名も知れていないがゴルゴにしかできないと思えたことをやってのけていた者もいたし、なんとゴルゴの狙撃を反射神経のみでかわしたというツワモノまでいたくらいなのだ。
にもかかわらずそれらのキャラもことごとくゴルゴにやられてしまう。対決の瞬間のためにゴルゴが何かしら先手を打っている場合があり、そのひとつに銃撃で上から下に動くものに照準をとっさに合わせることが困難である、という性質を利用したものがあった。他には何かしら意表をつくアクシデント等を意図的に起こし一瞬の躊躇を生じさせわずかな差で勝利を収めたり、というのがそれにあたる。自分より力のある相手であればその人物特有の癖をつき勝利を収める。銃を撃ったあとにかっこつけてポーズをとってしまう癖のあるやつがいたが、腕では勝っていたのに最終的に命のやり取りでゴルゴにやられてしまう、というのがあったと記憶している。反射神経で狙撃をかわしてしまうようなやつはセオリーにないような長期戦に持ち込みドーピングに頼った戦略の盲点を突き決着。

これらのエピソードで強調されているのはゴルゴの知的側面、その知略の強かさである。ゴルゴがただスナイパーとしての力量があるだけではなく、その知性によって超一流たることが示されているのだ。ゴルゴの知的側面については時事問題や、歴史等への造詣の深さや、さらに医学薬学等にも相当な知識を持っていることなどで強調されている。医学薬学については医者がその知識に舌を巻いたり、応急処置の適切さや薬草なんかの知識を通して語られる。語学に至ってはほとんどどこに行っても困難を感じないようなので主要言語はたいていマスターしてるようだ。実在の人物で10ヶ国語以上あやつれるひともいたというから10〜20ヶ国語程度は自在に操れる設定だと思われる。あるときはとある絵画が人手に渡るくらいなら修復不可能にするという形で一矢報いて欲しいというような話があったのだが、ターゲット(人物)と絵画を一発で射抜きその血のりを豪快に絵画に浴びせる、という手段をとった。これは絵画の修復において一番やっかいなのが人の血であるという科学(雑学というべきか)知識をゴルゴが持っていたことに相手方が驚くという話だった。ここでもゴルゴの知識の幅広さが強調されている。

少々長くなってしまったが、「今度こそだめなのか?」と読者に思わせておきながら生き残り、ピンチに陥ることで逆にゴルゴの知的側面を強調していることを示した。このひとつ前の段はやや蛇足ながらその補足である。


4:ゴルゴ出生の秘密
ほぼ定期的に訪れる超重要エピソード群だ。いつもこれでもか、これでもか、とゴルゴのすごさを強調してくるわけだがそれだけでは読者は飽きてしまうし、このような人物がいかにして生まれ育ったのかという背景が気になってくるわけだ。

この両方を一緒に解決し、このような長期連載を実現させるための秘密兵器・・それがゴルゴの出生の秘密に迫ろうとするエピソード群なのである。たいてい第二次大戦中に東郷という凄腕の特殊機関の構成員(もしくは幹部)がいて・・どうもその子供がゴルゴじゃないか、というような話になっていく。子供の頃の写真はゴルゴの風貌を思わせるものが多いし、境遇も実に恵まれないものでそこに育てばあのような冷酷な人物にもなるかもしれない、きっとこれはゴルゴに違いない、となるのだが最後はたいていが否定されて終わる。いくつかのエピソードは玉虫色で締めくくられ、読者の想像して楽しむ余地を残してくれている。ゴルゴの肉親じゃないかと思われる登場人物などが登場し、なかにはゴルゴと同じ持病を持つキャラなどもいた。日本人説、ロシア人と日本(アジア)人の混血児説、等いくつかの候補が消えずに残っているはずだ。どれもけっきょくほしい結論には至らないにも関らず、我々読者はついつい期待してしまう。「今度こそ本当なのか?」というように。こち亀や、クレヨンしんちゃんにおけるちょっといい話と同じように読者を惹き付ける働きを持ったエピソード群なのがおわかりいただけただろうか。


ひとまずこれで頻出・重要パターンは押さえた。今後は徐々により細かいところに目を向けていこうと思う。

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